脳科学的に無意識とは?

脳科学的に「無意識(unconscious)」は、私たちが意識的に気づいていない心や脳の活動の総称として捉えられています。これは精神分析的な「無意識(フロイト的)」とは異なり、より生理的・認知的な現象として扱われます。以下のような複数の側面から説明されます。


🧠 1. 無意識は「意識の外で起こる情報処理」

脳は、膨大な量の情報を処理していますが、私たちが意識できるのはそのごく一部です。無意識的な処理とは、意識にのぼらないが、私たちの判断・行動・感情に影響を与える脳の活動を指します。

例:

  • 歩く、話す、タイピングなどの習慣的な動作
  • 誰かの顔を見たときに「何か嫌だな」と感じる直感
  • サブリミナル効果(意識に上らない刺激が行動に影響)

🧠 2. 脳内のネットワークと無意識

脳には「意識的処理」を担う部位と「無意識的処理」を担う部位があります。

■ 無意識的処理に関与する部位:

  • 大脳基底核:習慣化した行動の制御
  • 扁桃体:危険の察知や感情の無意識的処理
  • 小脳:運動の自動化
  • デフォルト・モード・ネットワーク(DMN):ぼんやりしているときに活性化するネットワーク。過去の記憶や自己内省に関係。

🧠 3. 無意識と意思決定

私たちは「自分で選んでいる」と感じることの多くが、実は無意識的な処理の結果であることが、実験的に示されています。

有名な研究:

  • リベット実験(Benjamin Libet)
     → 指を動かすという決断の数百ミリ秒前に、すでに脳波が変化している(すでに無意識が決定している)
     → 意識は「結果を追認している」可能性がある

🧠 4. トラウマや感情の記憶と無意識

無意識には、言語化されない身体的・情動的な記憶が蓄積されます。これは、扁桃体海馬のはたらきと関係しています。

  • 言葉では説明できない「なんとなく怖い」「ざわざわする」感覚
  • 子どもの頃の記憶が意識にのぼらないが、身体や反応に影響している

🧠 5. 無意識と創造性・直感

創造的なアイデアや「ひらめき」は、無意識的な処理の結果として突然意識にのぼることが多いです。これは、脳が意識下でずっと問題を処理し続けているためと考えられています。


🌀 補足:フロイトの無意識との違い

  • フロイト:欲望や抑圧された感情が意識下に潜んでいると考える
  • 脳科学:情報処理の大部分は意識の外で行われているという、認知科学的な立場

🔍 まとめ

項目内容
無意識とは意識にのぼらないが行動や感情に影響を与える脳活動
主な脳部位基底核、扁桃体、小脳、DMNなど
主な機能習慣、感情記憶、直感、創造性、危機察知など
研究例リベット実験(自由意志の再検討)
応用領域トラウマ治療、瞑想、創造性開発、AI・UX設計など

✅ 脳科学は、ユングの「集合的無意識」をのままの形では説明できません


ただし、完全に無関係でもなく
いくつかの脳科学の分野は、
ユング的な無意識(特に象徴やアーキタイプ)に近い現象を別の言葉で説明しようとしています
以下に詳しく整理します。


目次

🧠 脳科学の「無意識」 vs ユングの「無意識」

観点脳科学ユング心理学
基本的な定義意識下での情報処理(個人の脳の働き)意識できない心の層。個人的無意識と集合的無意識に分かれる
主な対象認知・記憶・感情・直感などの脳内処理神話、象徴、夢、元型(アーキタイプ)など
集合無意識の概念基本的に扱わない(観測が困難)全人類に共通する心の基層として存在する

🌀 「集合的無意識」に近い現象はある?

以下のような分野では、ユング的集合無意識の概念に”似た”ものが観察・議論されています:

● ミラーニューロンと共感

→ 他者の行動を見ただけで、自分の脳が反応する現象
→ 他人の感情や意図を「無意識に共有する」しくみとも言える

● 進化心理学

→ 文化や時代を超えて見られる普遍的な感情・行動(例:母性・恐れ・神話的構造など)
→ これは遺伝的に受け継がれた脳の構造による傾向と解釈される
※ ユングの「元型(アーキタイプ)」に近いが、意味づけが異なる

● 夢研究と脳科学

→ 睡眠中の脳活動や夢の共通パターンを研究
→ 「夢に出てくる象徴的なイメージ」はユングと重なる部分があるが、脳科学では生理的反応と捉えられる


🧬 なぜ脳科学では「集合無意識」を証明できないのか?

◉ 理由1:客観的データが取りづらい

  • 脳科学は観察可能な脳活動(脳波、fMRIなど)を対象とする
  • 集合無意識は「経験的に共通する象徴や神話」であり、主観的な意味の世界に属する

◉ 理由2:科学的再現性が低い

  • 脳科学は再現性と測定可能性を重視
  • ユングの夢分析や元型は深い洞察を与えるが、定量化が難しい

🌱 架け橋となる領域もある

🔹 神経精神分析(Neuropsychoanalysis)

  • 精神分析(フロイトやユング)と脳科学の融合を試みる分野
  • マーク・ソルムズなどが代表的
  • 無意識的な衝動や感情を、脳内のドーパミン系や扁桃体などと結びつけて説明

🔹 神経美学・神経神話学(Neuroaesthetics / Neuro-mythology)※まだ萌芽的

  • 芸術や神話が人間に与える効果を脳科学的に研究
  • 神話や象徴を「脳の情報処理の文法」としてとらえる動き

✨ 結論

  • 脳科学は、ユングの集合的無意識を科学的に説明はできません
  • しかし、集合無意識の働きを連想させるような脳の性質(共通パターン、象徴の生成、共感など)は存在します
  • 両者をつなぐには、象徴・神話・夢などを「情報処理」や「進化的傾向」として読み解く視点が必要です。

ユング的な集合無意識を使ったワークに対して、
「それって科学的に意味があるの?」「根拠はあるの?」
と問われた際に、現代の脳科学や心理学的観点からどう説明できるかを、納得感のある言葉で返せるようにする


🧠 1. 科学的立場:集合無意識そのものは証明されていない

「ユングのいう『集合無意識』は、現在の脳科学では直接的には証明されていません」
ただし、「普遍的象徴やイメージが人類に共有されている可能性」については、複数の学問領域から関心が持たれ続けてます。


📚 2. 関連エビデンス

🔹(A)進化心理学の視点:「普遍的な行動傾向」

  • 人間の脳は生存と繁殖に有利な方向で進化してきた
  • その中で、神や母・敵・英雄といった象徴は、文化を越えて繰り返し現れる
  • ➡️ 「元型(アーキタイプ)」的な反応パターンが、進化的にプログラムされているという説明ができる

▶️ 参考論文:

  • Cosmides & Tooby (1992) “The Adapted Mind”:進化論的心理モデル

🔹(B)神経美学・脳の共通反応:「象徴や美に対する反応」

  • 脳は特定の視覚パターンや音の構造に強く反応する
  • 例えば、対称性・リズム・コントラストなどは、どの文化でも美しいと感じやすい
  • ➡️ **無意識レベルで共有されている「好ましいパターン認識」**という説明が可能

▶️ 参考論文:

  • Zeki, S. (1999). Inner Vision: An Exploration of Art and the Brain

🔹(C)集合的記憶と文化神経科学(Cultural Neuroscience)

  • 人類は文化的記憶(神話・儀式・物語)を共有し、それが脳の発達に影響する
  • ➡️ 集合無意識は「神経文化的構造の蓄積」と言い換えられる

▶️ 参考論文:

  • Chiao, J. Y. et al. (2009). “Cultural neuroscience: Bridging cultural and biological sciences”

🔹(D)ミラーニューロンと共感:「個人を超えた感情の共有」

  • 他者の行動・表情を見ると、私たちの脳でも同様の反応が生じる
  • ➡️ 象徴的・身体的な「意味の共有」は生物学的に実現されている

▶️ 参考論文:

  • Rizzolatti & Craighero (2004) “The Mirror-Neuron System”

🌀 3. セラピー応用における現代的解釈

ユング的用語現代科学的な言い換え実践での説明例
元型進化的に根差した記憶パターン「“母性”や“英雄”というイメージは文化を越えて人々に影響を与えます。これは脳の進化的特性と関係しています」
夢・象徴無意識的な情報処理と記憶の統合「夢に出てくる象徴は、心が無意識に整理しようとしている内容です」
集合無意識神経的・文化的な共通構造「人類に共通する感覚・記憶があるという前提は、脳科学でも少しずつ解明されています」

🎤 4. 声やアートセラピー

「このワークでは、普遍的な音や形、色やリズムを使います。これはユング心理学では“集合的無意識”と呼ばれていますが、脳科学的にも、文化を越えて共有される象徴や感情反応があることがわかってきています。つまり、私たちの深いところに届く表現は、言葉を超えて“共通の脳のしくみ”に働きかけているのです。


✅ 最後に:(まとめ)

「集合無意識は脳科学的に直接証明された概念ではありませんが、人類に共通する象徴や感情反応の存在は、神経科学や進化心理学の視点からも支持されています」


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この記事を書いた人

飛南 吏玲(森すみれ)
(表現セラピスト/VoxMundiSchool認定ヨガ・オブ・ボイスティーチャー)
阪神淡路大震災後のボランティアをきっかけにアートセラピーに取り組み、1997年より子どもや大人の自由創作スペース「ミューズハウス」をスタート。2006年にアーツ・コミュニケーション・ラボを設立。心理学、アーツセラピーに関する研究を続けながら、講座を展開して、アーツセラピーの普及にも力を注ぐ。また、2015年、声を自由にし、声を通して自分の本質へと導くヨガ・オブ・ボイス(アメリカVox Mudi School)の日本人ではじめてティーチャーのサーティフィケートを取得。
現在は、神戸を拠点に講座やワークショップ、オンラインクラスのほか、宿泊型の自然のと触れ合うアートリトリートを開催。シャーマニックな場、要素を大切にして、アーツセラピー 、ヨガ・オブ・ボイスを提供している。
薬剤師としての経歴もあり「Art as Medicine」薬の代替としてのアートこそ、これからの時代は必要だと考えている。
その他、2012年からは毎年、Touch Artsプロジェクトの代表として、ボランティアベースで、「大人も子どもも自由にアートで表現できる場」としてのイベントを開催し続けている。

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